松田文雄《早春の庭》

1967(昭和42)年
油彩・キャンバス、33.5×24.5㎝

この作品は、山下新太郎と親交のあった松田文雄によって描かれたものです。山下は年下の松田をかわいがっており、松田は、料理上手の山下の妻の誉花(ヨハナ)の手料理目当てに、山下家に頻繁にやって来たそうです。山下が1966年にこの世を去った後も、松田と残された山下の家族との交流は続きます。この作品は、山下が亡くなった翌年の1967年に描かれました。画面の裏には、「早春の庭」というタイトルと、「1967年3月12日」の日付、そして「松田文雄 謹呈渡辺峯子夫人様 祖師谷渡辺邸ニテ」との書き込みがあり、松田が山下の娘の峯子にこの作品を贈ったことが分かります。建物は、峯子が当時住んでいた、世田谷区の祖師ヶ谷大蔵の家ですが、近代建築に日本の数寄屋の伝統を取り入れたことで知られる建築家、吉田五十八(いそや)が日本画家・山口逢春のために設計したものです。描かれている二人の女の子は当時10歳と7歳の峯子の娘たちです。早春の穏やかな陽の光の中、梅が咲きほころぶ下に小さく描かれた少女たちの後ろ姿。山下亡き後に、遺された友人の松田が引き継いで描いた、山下家の次の世代のファミリーポートレートといえるでしょう。